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番外札所

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春日井 健 2

引き続き「未青年」より


  奴隷絵図

 胎壁に胎児のわれは唇(くち)をつけ母の血吸ひしと渇きて思ふ

 若き母夢みしわれの朝ふかく李朝の壺に揺るる藤の房

 喉しぼる鎖を父へ巻く力もつと知りたる朝はやすけし

 火祭りの輪を抜けきたる青年は霊を吐きしか死顔をもてり

 鬼ごつこの鬼の子の父を愛しゐて追はれゆく花壇の血のいろの花


  雪炎

 灰いろの霧の餌食となる夜を影より淡く人はさまよふ

 火の罠をつくるライトの中に立ち青年狂ほしく楽を指揮する

 膝つきて散らばる硝子ひろはむか酔漢の過失美しければ

 他人を抱きし腕を河面にひたすとき緋いろの月のにじむ水照り

 雪やまず窓に氷花の青白き夕べ着ぶくれて母は華やぐ

 みひらきて凍れる夜気を吸ひおれば眼は氷穴のごとき深淵


  弟子

 石膏のつめたき筒をぬくめゆく若く愛されやすき両脚

 武骨なる男の斧にひきさかれ生木は琥珀の樹液を噴けり


  火柱像

 蒼き尾をみづから焼きて流れたる星の夜更けも匕首を研ぐ

 電飾のけむれる街をさまよへり無垢なる日々の記憶は消えよ



「匕首」は「あいくち」と読んで短剣のことらしい。
by npapapapa | 2008-11-02 22:19 | 鑑賞